「チョークとソロバン」両立への道

塾講師として数字を出す「営業力」を身に着ける勉強ブログ

【総括】営業素人の塾講師が営業本28冊を読んで考えたこと

ねこみんと申します。

 

このブログを立ち上げてから、約2か月半が経ちました。

その間ご覧くださっていた皆様、ありがとうございます。

 

ふだん、理科ネタや指導実践のことを発信するTwitterアカウントを運営しているのに、「なぜ営業の勉強をしているんだろう・・・?そんなことより理科ネタはよ」と思われた方もいらっしゃったかもしれません。

 

きっかけは、教室管理者の選考に合格したことでした。

 

これまで従事してきた契約講師の仕事はあくまで授業がメインであるため、売上げのことはあまり考える必要はありませんでしたが、今後は教室を運営する立場として、経営面にも意識を向けなくてはならなくなります。

 

早い話、ビジネスとして「数字を出す力」を求められるようになるのです。

無論、我々の商品はあくまで授業を始めとする教務であり、そこで手を抜くことは本末転倒だと思っています。

しかしながら、教室で黙って待っていれば新規入塾や講座追加が勝手に発生するほど、塾業界も甘くありません。

教務という商品を必要な方に自信を持って提供するためには、営業という働きかけが必要になってくるのも事実。

 

そして何よりビジネスである以上、売上げを出さなければ事業の継続は困難になります。

過去に一度、業績不振でクローズになった教室に在籍していたことがありましたが、通ってくれている生徒・通わせてくださっている保護者に、隣接教室への移籍か、退塾かの決断を迫らなければならず、それはそれは辛いものでした。

目の前の生徒や保護者を大事に思えばこそ、売上げという現実の数字から目を背けていてはならないのだと痛感した経験でした

 

そんな経緯から、「どこかでしっかり営業を勉強しなくては」という課題意識をずっと持ち続けていました。

そして前述の通り、今回の教室管理者の選考合格をきっかけに勉強を開始し、今に至るということになります。

 

 

さて、そんなわけで営業の勉強を始めることになったわけですが、営業的な仕事に携わった経験がほとんどない「素人」なこともあり、何から始めればよいのか、最初は正直見当もついていませんでした。

 

ですが、そこはかつて「教師生活スタートダッシュ戦略ノート」を作成して勉強した経験のある私。

 

計画を立てる重要性は経験上分かっていたので、今回はこちらの本を参照して、勉強を進めていくことにしました。

 

 

①情報マップ

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前掲の「一流の学び方」の著者、清水久三子さんが「情報マップ」と呼ばれているものです。ブックリストであると同時に、これから学んでいく内容がどの領域に位置付けられるのか整理するのに役立ちます。

学びの地図のようなもので、これがあると全体像がかなりはっきりします。

領域は、Amazonで検索した本の目次を参考に設定して作成し、本を読み進める中で徐々に修正していきました。

 

②学習ロードマップ

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インプット&アウトプットをいつ、どのようにするか。
時期計画を大まかに示した「学びの時刻表」のようなものです。 

これを作っておいたので、その都度何をすべきかが明確になりました。

(できてないこともありますが・・・^^;)

 

③ラーニングジャーナル

本を読んで、学んだことも、蓄積して引き出せるようにしておかなければ、いずれ忘れてしまいます。そこで著者の清水さんが推奨されているのが、「ラーニングジャーナル」の作成です。

 

書評や実践の記録、学びの総括などを蓄積していくデジタルの媒体で、私は当ブログを使っていくことにしました。

nekomin.hatenablog.jp

 

④L&L(Lessons&Learned)

知識を得られても、実践経験を積まなければただの物知りで終わってしまいます。

 「一流の学び方」の画期的なところは、実践からの学びもシステム化しているところです。

画像は清水さんが「L&L」と呼ばれているもので、Excelに実践の振り返りを蓄積しています。

まだまだ数は少ないですが、これから実践の度に数を増やして、まとまったらラーニングジャーナル(当ブログ)にも落とし込んでいく予定です。

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このように「スキルを身に着けることに特化した」勉強方法を実践することで、闇雲に本を読むよりも効率的に、着実に営業について学んでいくことができました。

 

初めて本格的に担当した受講促進でも、こうして結果を残すことができたことから、この勉強のやり方で間違っていなかったのだと思っています。

 

(私的にはかなりフィットしたやり方だと感じたので、今後は他領域の学びでも、実践していきたいと思います。)

 

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ではここからは、2か月半、営業について本や実践から学び、私なりに掴んだポイントをまとめていきたいと思います。

※あくまで現時点の「営業駆け出し」の私見ですので、今後ブラッシュアップしていくための土台だと思っていただけると幸いです。

 

0.事前準備を徹底する

授業もそうですが、成否が事前準備でかなりの程度決まることは営業でも同じだと感じました。

どの本を読んでも、準備の重要性について書かれています。

準備と言っても資料や手続きの準備などさまざまな要素が考えられますが、中でも重要なのは、次の2点だと思っています。

 

①顧客について情報を収集し、「どんな商品を必要としているか」仮説を立てること

☞通塾を検討しているご家庭のニーズは、さまざまにあります。小学生であれば、中学受験をする予定なのか、公立中に進学する予定なのかによって、必要な対策はまったく異なったものになります。中学生でも、推薦狙いか一般入試狙いか、あるいは私立志望か公立志望かによって、定期テストの重みが変わってくるなど、提案する講座は異なってくるでしょう。

ニーズをある程度類型化して、どの講座・教科をどんな組み合わせで提案することができるか、これを事前に考えておくことで、その後の面談の成否が大きく違ってくるように思います。

 

②仮説をもとに、どのような流れで営業を進めるか「シナリオ」をつくること

☞仮説が立てられたら、それを踏まえて営業の「シナリオ」を作っていきます。どのようにニーズを引き出し、どこで提案するか、そのタイミングを事前に練っておくことによって、面談時に慌てずに済みます。授業のプランを「指導案」という形で作ることがありますが、あれに近いものだと思います。

また、シナリオを文書として作成しておくことで、これをもとに面談後に振り返りを行い、シナリオをブラッシュアップしていくことができます。

洗練されたシナリオを複数持っていれば、かなり余裕を持って営業を行えそうだと感じました。(将来的に、部下の指導にも役立ちそうです。)

nekomin.hatenablog.jp

 

 

1.人間関係を構築する

どの営業本でも説かれていたNG行為が、「いきなり売り込んでしまうこと」。

初めて会った相手から、いきなり売り込まれて購入に至るのは、その商品をよほど欲しがっていたという状況でもない限りあり得ません。

(そもそもその状況なら、営業は必要ないでしょう。)

 

営業とは、購入するか迷っている、あるいは自身でも何が必要なのか漠然としか分かっていない顧客に対して、専門家として助言を行い、顧客の欲求を明確化し、必要な商品を提案し、背中を押してあげる仕事です。

 

そのためにはまず営業を行う人物が「専門家」であり、顧客の力になりたいという「思い」を持った存在であることを、分かってもらう必要があります。

それが、営業における人間関係の構築です。

 

具体的なポイントは次の2点あると思っています。

①自己開示する

☞自身がどういう考えを持っているのか、何ができるのか、自分から開示していくことは、コミュニケーションの基本と言えます。最初は簡単な雑談に始まり、やがて仕事にかける思いなど、内面を開示していくことで、「専門家」であることと「思い」が伝わっていくことでしょう。

②顧客の人物・動機を知る

☞自己開示しながら、同時に顧客の人物や、購入を検討した動機を引き出していくこともまた重要です。それがその後のヒアリングや商品の提案につながることは言うまでもありませんが、このとき「目の前のこの人の役に立ちたい」という思いもまた、営業を行う者の中で育っていくことになります。(実際そうなりました)

 

この2点を意識しつつ、お互いを分かり合おうとすることで、信頼関係が生まれていくことでしょう。人は「自分を分かってくれる」人の言うことであれば、受け入れることができます。どの営業本を読んでも書かれていたことですが、営業で実績をあげる人はこの重要性をよく分かっているのでしょう。

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2.ニーズのヒアリングを行う

信頼関係が構築できたら、ニーズのヒアリングに移っていきます。

顧客の多くは、自身の欲求を明確化できていないことが多いと言われています。

「現状どんな問題を抱えているのか➡その問題がどうなったら解決したと言えるのか」

これを明らかにしていくことが、ヒアリングの目的です。

このヒアリングを効果的に行っていくために、信頼関係の構築が必要になるのです。

(よく知らない人に、根掘り葉掘り聞かれたい人はいないことでしょう)

ここでのポイントも2つあると思っています。

 

①顧客に話してもらう

☞当たり前のことですが、ヒアリングにおいては顧客に話してもらわなければ、ニーズを詳らかにしていくことはできません。

この人はよく話を聞いてくれている」と思えなければ、人は口を閉ざしてしまいます。

「あいづちを打つ」「復唱する」「話を要約する」「質問する」「接続詞で引き出す」…話してもらうためには、そうした能動的な聞き方が求められます。

(🔑アクティブ・リスニング)

これはトレーニングと実践によって身についていくことだと思います。今後もL&Lを蓄積していくつもりです。

 

②集中を妨げる要素を取り除く

☞「営業の神様」でジョー・ジラードが言っているように、顧客の話を聞いているときは、全神経を集中して話が聞けるよう、邪魔が入らないようにしなくてはなりません。

よくありがちなのは次の予定の時間が気になって、時計をチラチラと見てしまうこと。

視界に時計を入れないことなど、事前に取り除くことが重要だと思います。

 

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3.プレゼンテーション 

ニーズが明らかになったら、 ここで初めて商品のプレゼンテーションに入ります。

顧客の中で「自分はどんな問題を抱えているか」「どうなったら解決したといえるか」が明確になっていると、その解決方法を聞くモチベーションが生まれます。

逆に言うと、ニーズが明らかになるまでは、解決方法をプレゼンしてはならないのです。(問題が明確になっていないのに、解答を書き始めるテストが無いのと同じです)

これはどの営業本の著者も同じように書いていることでした。

 

ここでのポイントは1つ。

 

★その商品を購入したら訪れる「未来」を具体的に見せること

 

その商品を利用した自身(生徒)の姿をイメージしてもらうということです。

たとえば私が勤務先で今回上手くいったケースに、小6算数の追加講座の受講促進がありました。

その際の手順を再現すると、

①中学1年生の1学期のテストで、数学は文字式の利用で「割合」や「速さ」「平均」が登場することを紹介する

②小6の段階でこれらの単元がある程度固まっていないと、テスト対策で苦労する

③追加講座は「割合」「速さ」「平均」を取り扱い、練習を繰り返す内容であることをお伝えする

④ここで前もって練習ができていれば、テスト対策はスムーズになる

おおまかに、このような順番でプレゼンしました。

①②で問題提起を行い、③④でその解決策を提示するという流れになっているのが分かるかと思います。

(この流れを「地獄→天国」と呼んでいる著者もいらっしゃいました)

これを実践した結果、前述したとおり受講率は教室内でNO.1になりました。

具体的な場面に即して、問題が解決した未来をイメージさせることが、プレゼンテーションの原則だと感じました。

ニーズが分かっていれば、こうした流れに持ち込むことは容易になるでしょう。

 

4.クロージング

最後に、クロージングとなります。ここで契約の、成否が明らかになります。

営業本を読んで分かったことは、このクロージングの段階を苦手としている営業の方が、世の中とても多くいらっしゃるということです。

確かにクロージングには「契約を迫る」というイメージがあり、私も正直に言って苦手に感じています。

ただし、前述したように営業には「背中を押す」という側面もあります。

商品を購入しなければせっかく顧客の問題が明らかになり、解決策が分かっていても、解決という未来は訪れないことになります。

 

そっと購入を後押しするために、できることがいくつかあります。

①最後の段階で、契約するかしないか決断してもらうことを予め伝えておく

☞「よいと思ったらスタートしてくださいね」「最後にお答えをお聞きしますね」

といったように、事前に決断を伺うことを予告しておきます。

人間、決断するには勇気とエネルギーが要ります。それが予め分かっていると、どこで踏ん張らなければならないかが分かるので、それまでに覚悟を決められます。

(書評は書いていませんが、堀口龍介さんの「即決営業」のエッセンスです。)

https://www.amazon.co.jp/%E5%8D%B3%E6%B1%BA%E5%96%B6%E6%A5%AD-%E5%A0%80%E5%8F%A3%E9%BE%8D%E4%BB%8B/dp/4763135619/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&dchild=1&keywords=%E5%8D%B3%E6%B1%BA%E5%96%B6%E6%A5%AD&qid=1610268813&sr=8-1

 

②引っかかる点をヒアリングする

☞顧客の中には、不安・不満が払拭できずに購入を悩んでいる場合もあります。

「何かご不安な点がおありでしょうか?」と聞き、その不安が解消できれば購入に至ることも少なくないようです。

その不安・不満はいくつかパターンがあります。

(1)そんなに必要ない☞ニーズのヒアリングに戻る

(2)急いでいない☞ニーズのヒアリングに戻る

(3)お金がない☞緊急度を認知・支払方法の提案

(4)高い☞ニーズのヒアリングに戻る

多くの営業本で、概ねこのような理由と解決策が挙げられていました。

重要なのは、これらの不安・不満に対して、対応を事前に決めておくこと

不安や不満に共感した上で、提案の流れに持ち込んで、解消を目指します。

 

③決断にあたっての協力を申し出る

☞たとえば契約の決定者が、奥さまではなく、ご主人であるような場合、「いったん家で相談してから…」ということになります。事前に決定者を巻き込んで面談したいところですが、そうもいかない場合、「では、ご主人にお電話で私から今の説明を差し上げましょうか?」といったように、協力を申し出るのです

ジョー・ジラードの「営業の神様」でも、妻の意見も聞きたいという顧客に商品の新車のキーを渡し、「奥さんと一緒に乗って決めてください」と伝えて翌日契約に至ったエピソードが紹介されています。

決断にあたっても、あくまで専門家として役に立ちたいという姿勢を示すことが、よい結果につながることが多いようです。

 

5.アフターフォロー

「営業は売ったら終わり」と言わんばかりに、その後はほったらかしというケースも、世の営業には少なくないようです。

せっかく、信頼関係を構築してもこれでは台無しです。新たな商品を営業するとき、既存顧客の契約率は、新規顧客の契約率よりも高い傾向にあることを考えても、アフターフォローに力を入れない手はありません。

塾であれば、入塾した後の教務やサポートを充実させるということになります。

冒頭でも書いたように、そもそもこの部分が疎かでは継続して成果をあげることは難しいわけですが、ここでは、塾業界だからこそ意識すべきポイントを2つ挙げておきます。

 

①担当する講師達の心を掴んでおく

「営業の神様」の書評でも書きましたが、入塾後に自分が担当するのならともかく、共に働いている講師が担当するような場合、彼ら・彼女らとの関係が良好であることは必須の条件になると思っています。

これは私自身がそうやって入塾した生徒を迎える立場を長くやってきたのでわかることですが、入塾を決めた教室長がふだんから気にかけてくれて、こちらの言うことによく耳を傾けてくれる人物であれば、期待に応えようと尽力する気になります。

反対に、こちらときちんと向き合ってくれない教室長では、意気が上がりません。

その結果、問題が起こっても報告しない・伝わらないといったミスコミュニケーションが発生してしまうのです。これはアフターフォローの体制としては、不備があると言わざるを得ません。

従業員満足(ES)が顧客満足(CS)につながる」というのは、的を射た指摘だと思います。

 

②保護者と現状を共有する機会をなるべく多く持つ

これは塾の業態ならではの話ですが、塾は費用を負担する者(=保護者)とサービスを受ける者(=生徒)が違います。そのため費用負担者と、享受者が一致している業態のビジネスと比較して、費用負担者の不安が生まれやすいという構造があります。

「入塾の際に約束した未来のイメージに、いまどれだけ近づいているのか」

これを共有する機会を、なるべく多く持つことが重要だと思っています。

特に、最初は授業の度に様子を聞くくらいの意識でよいくらいです。「1日に2本は様子を聞く電話をかける」などと決めて実行するのもよいかもしれません。

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ここまで、営業の流れに沿って、それぞれの段階について学んできたことをまとめてきました。

自分で書きながら、営業における重要なポイントが(実践できるかどうかは別として)しっかり頭に入っていることに驚きを感じました。

「一流の学び方」の清水さんは、著書の中で「1つの分野について初めて学習するときにとりあえず関連本を一通り集めてみようと思うと、だいたい20~30冊になるものです」とおっしゃっていますが、これまで読んできた28冊が、営業の全体像を掴むのに役立ったことを確かに実感しています。

 

もちろん、これで営業を分かったとは毛頭思いません。

たかだか2か月半学んだだけで、継続して成果があげられるほど、生易しい世界でないことは分かっているつもりです。

きっと、まだ理解しきれていないこと、掴み切れていないことがあるでしょう。

ですが、今後実践を積んでいく中で、自身の営業力をブラッシュアップしていく土台は確かに築けたと思います。

 

今後も学び続けていこうと思います。

ここまで読んでくださってありがとうございました。

これからもねこみんをよろしくお願いします。

 

参考「一流の学び方」 本当におすすめです。 

 

【書評】営業の神様 ジョー・ジラード

【うまく聞く技術】

1.口を閉じる。そして耳をすます

2.五感のすべてで聞く。

話の全体像をつかむ。

3.目で聞く。

アイ・コンタクトを保ち、一言一言に注目する。

4.体で聞く。

ボディ・ランゲージを使ってコミュニケーションする。背筋を伸ばしてすわり、少し前に身を乗り出す。気を抜かない。

5.鏡になる。

相手が笑ったら自分も笑い、相手がうなずいたら自分もうなずく。相手が顔をしかめたら、自分も(同意のしるしとして)顔をしかめる

6.話をさえぎらない。

話している相手の思考の流れを中断させたり、いらだたせたりしない。

7.外部から邪魔が入らないようにする。

オフィスに顧客を迎えているときは電話が鳴らないようにする。または、邪魔が入らないところに場所を移す。

8.音の邪魔が入らないようにする。

携帯電話、ラジオ、テレビ、BGMなどを切る。相手への注意がそれてしまうようなものをそばに置かない。

9.視覚的な邪魔が入らないようにする。

窓の外の光景に気をとられて顧客への注意がそれることのないようにする。

10.集中する。

常に相手に注意を向ける。あくびをしたり、時計を見たり、爪を見たりしない。相手を居心地悪くさせたり、ないがしろにされていると感じさせるようなことは一切しない。

11.「行間」を聞く。

相手が言葉以外で何かを伝えていないか、シグナルに耳をすませ、しぐさや表情を読む

12.「口ばかりで行動が伴わない」人間にならない。

 

以上が聞くためのレッスンの十二のステップだ。毎日の生活でこれらを心掛ければ、よく聞く習慣が身につく。すぐにうまく聞く技術をマスターできるようになる。その技術こそ、すべての成功者に欠かせない要素なのだ。(P.285~286)

☞聞くということを、少々難しく考えすぎていたきらいがある。ジラードの言う通り、うまく聞くとは、「全集中の状態で、相手と向き合う」ということに他ならない。

技術ではなく、姿勢の問題なのだ。その邪魔になるものは、物理的・心理的問わず、その場から締め出さなくてはならない。ただそれだけだ。

 

【アフターフォローに力を尽くす】

あなたも顧客との関係構築を一番に優先させなければならない。顧客に何かを売ったらそれで終わりと考えているなら、大間違いだ。

本当の営業は売った時から始まる。結婚のようなものだ。結婚式やハネムーンで終わりではない。これから一生続くのだ。愛する者を大切にしなければならない。そうしなければツケを払わされることになる。顧客も同じだ。

顧客を失うのは、たいてい売った後だ。私の仕事の場合、それはショールームではなく、整備部門で起こる。だからこそ、最高のアフターサービスを提供しなければならない。私が毎月第三水曜日に、整備部門のスタッフ全員(全部で三十六人)を食事に招待していたのは何のためか。それは彼らが私の生死を握っていたからだ。だから全員を私のチームにしたかった。私の顧客を最優先してもらいたかった。彼らはそうしてくれた。私のために何でもやってくれた。それもこれも、彼らを手厚くもてなしたからだ。

(P.325~326)

☞「アフターフォローが大切」ということは、どの営業本にも書かれていた。しかし、ジラードがやっていたように、アフターフォローを担う部門との関係をしっかり構築するところまで書いている本はほとんど無かったように思う。われわれ塾講師にとっては、入塾した後に指導を担当してくれる講師たち(学生含む)がアフターフォローを担う関係者ということになる。彼ら・彼女らの心を掴むことは、教室を管理する責任者として、生徒・保護者に誠実であるために必須の条件であることに思い至った。この業界で数字は出せるが、維持できない人を見ていると、ここが疎かになっている人が多い気がする。共に働いてくれる講師たちのために、何ができるかを、今から考えていきたい。

 

【ジラードの二百五十の法則】

これは葬儀社の経営者から聞いて知ったことだが、亡くなった人の葬儀用に印刷する会葬礼状の数が二百五十通だという。それが平均的な葬儀の列席者数なのだ。

考えてみてほしい。ひとりの人が、葬儀にやってくるような二百五十人の知り合いに与える求心力や影響力を。しかも、その二百五十人のそれぞれに、さらに二百五十人の知り合いがいるのだ。(中略)何が言いたいかというと、それぞれの人が二百五十人もの知り合いに影響を及ぼせることを考えれば、たった一人の顧客も粗末にできないということだ。(P.347~348)

☞事実として、中には誠実とは言えない生徒や保護者もいる。しかし、それはこちらが誠実でなくてよい理由にはならない。誠実に向き合ったのに裏切られ、結果として去られたとしても、こちらの品位は保たれる。そしてそんな姿勢を、生徒・保護者や周りのスタッフは見ているものだ。そしてそれは、更に周囲の人へと伝わっていく。長い目で、顧客と向き合えるようになりたい。

 

【関係構築の極意】

顧客との連絡を絶やさないというのは、ただ言葉をかけることではない。死ぬまで面倒を見るということだ。それを肝に銘じなければならない。(P.355)

☞これを読んだ時は、鳥肌が立った。私が初めて仕えた教室長(私が塾業界に入るきっかけをつくった)が、関わった生徒や講師に言っていたことそのままだったからだ

決して器用な人ではなかったし、論理的に考えを伝えられる人でもなかった。正直に言うと、「何を言っているのかよく分からない人」で、最初は嫌いなくらいだった。

何度も反発したし、言うことを聞かない時もあった。そんな生意気な私だったにも関わらず、何度拒絶されても、関わることを諦めようとしない人だった。

初めて主任として送り出した受験生が、合格したときは泣きながら抱き合って一緒に喜んでくれた。その瞬間、心の底から「この人は自分に向き合ってくれている」と感じた。

それ以来、心から信頼、尊敬する元上司として、今も親交が続いている。

「一生面倒を見る」これを有言実行している元上司は、私を含め大勢の元生徒・元保護者、元講師との交流があり、それが仕事の助けにもなっているようだ。

ここまで営業を学んできたが、その極意はキャリアのスタートで常に身近で体感し続けていたものだったのだ。久々に、元上司に会いたいと思った。

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500ページ以上の分厚さを敬遠して、読むタイミングが最後になった。正直に言って、よくある自己啓発本のような内容なのだろうと勘ぐって、後回しにしていた節もある。

しかし、読み進めるにつれて、もっと早くに読んでいればよかったと思うようになった。営業はスキルではなく、生き方そのものに直結していることが、ジラードの語りから「心」に伝わってくる。まるで目の前に彼がいて、自分に足りないものを指摘してくれているかのように。

そして図らずも、ジラードの営業本から、塾講師としての仕事を始めた原点を振り返ることにもなった。

こういうことがあるから、本から学ぶことはやめられない。

 

https://www.amazon.co.jp/%E5%96%B6%E6%A5%AD%E3%81%AE%E7%A5%9E%E6%A7%98-%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%BC-%E3%82%B8%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%89/dp/4434178822/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&dchild=1&keywords=%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%89&qid=1610196652&sr=8-1

 

【書評】雑談の一流、二流、三流 桐生稔

【最初の一言】

一流の人の会話を紐解くと、必ず会話の主題が相手にあることに気づきます。

こんな会話です。

「今日は暑いですね。今日は30℃を超えるそうですよ。夏バテとか平気ですか?」

「今日は本当に暑いですね。ちょっとクーラー効き過ぎですかね?大丈夫ですか?」

「今日は暑さがすごいですね。しかし〇〇さんって夏男って感じですよね。夏はお好きですか?」

このように話題の矢印を必ず相手に向けて、相手が話しやすいテーマを設定しています。

☑一流は、相手に焦点を当てることからはじめる(P.24~25)

☞自分のことばかり話している人との会話は、あまり続かない。相手にフォーカスすることは、営業のトークにおいても共通するポイントだと感じる。

 

【出会い頭の挨拶】

自然に会話をスタートするには、挨拶にも仕掛けが必要です。

その仕掛けとは、「ツープラス」です。挨拶にもう二言追加するのです。

「おはようございます。(挨拶)昨日は遅くまでありがとうございました。(一言)しかし部長、本当にタフですね。(二言)」

「おはよう!(挨拶)昨日の飲み会楽しかったね。(一言)アレははしゃぎすぎでしょ。(二言)」

「はじめまして。(挨拶)お会いできて光栄です。(一言)噂はかねがねお聞きしております。(二言)」

(中略)

一流は先手を取るのが上手です。先手とは先に話しやすい空気をつくることです。

挨拶は雑談の一番はじめ。会話のエンジンをかけるかのように、挨拶にもう二言追加して会話をスタートさせてみてください。

☑一流は、挨拶にツープラスする(P.31~32)

☞一言プラスは、会話術の本でもよく紹介されているが、結局そのあとが続かずに沈黙してしまうことも多い。二言プラスするよう意識することで、前項でもあったように相手にフォーカスした発言を入れることもできる。

 

【雑談上手】

人間は聞いている時間よりも、話している時間のほうが、あっという間に過ぎるのです。いかに相手が話したくなるような空間をつくるか、ここが最大の腕の見せ所です。

それを実現するには、一流が使っている「接続詞」に注目してください。

「〇〇さんってテニスを10年もやられているんですか?ということは(接続詞)、学生時代からずっとですか?」

「そうすると(接続詞)、健康には結構気をつけているタイプですか?」

「ちなみに(接続詞)、他にも体を動かすことやられているんですか?」

「ということは」「そうすると」「ちなみに」、これらはすべて話を進める接続詞です。

☑接続詞を使って、相手から自然に会話を引き出す(P.49~51)

☞入試の直前期になると生徒と面接練習をすることがあるが、その際に生徒から発言を引き出すために「ということでしたが~」「そうなると~」「ちなみに~」といった接続詞を自然に用いていたことを思い出した。あまり使いすぎると、尋問のようになってしまいそうなので注意したい。

 

【質問のボキャブラリー】

1.会話を「深める」質問・・・なぜ?どうして?

2.会話を「広げる」質問・・・他には?

3.会話を「進める」質問・・・それで、それから

☑一流は相手が話したくなるように質問する

☞「超一流の雑談力」でも、話題を横に広げていきながら、相手の関心に引っかかる話題を深堀りするという雑談の基本が紹介されていたが、それに通じる話だと思う。

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【ほめるところ】 

入社、3か月経過した新卒が、いまだに1件も契約が取れていないとします。しかし3か月前は一人で営業に行くことすらできなかったわけですから、それと比較すれば一人で営業に行けること自体が伸びしろです。

そんな新卒に声をかけるときは、「今はガンガン一人で営業行ってるんだって?すごいね」とか、「今は面構えが社会人になってきたね」と声をかけるとよいでしょう。

ほめるところがない場合でも、過去との比較、つまりBefore→Afterを見ることで、ほめるポイントを発見することが可能です。

☑過去と現在の比較でほめるポイントを発見する(P.72~75)

☞なかなか成績が伸びない生徒を励まし、勇気づけるときによく意識すること。

 

【コメント】

これは私の失敗談ですが、以前、私が心理学を勉強し始めた頃、ある人が私に「最近、能力開発に目覚めまして、心理学を勉強しているんです」と話しかけてきました。

私はこれみよがしに、「そうなんですか!いや~私もなんです。今ユング心理学を勉強してましてね。やはりユングフロイトは明確に違いますね~」なんて得意げに話を被せていたら、その人は場を去ってしまいました。(P.103)

☞私も似たような失敗経験がある。なまじ知識があるとやってしまいがち。相手は話を聞いてほしいから、話しかけてきている。コメントを被せるのではなく、承認のコメントがまず出てくるようにしたい。

 

【年配との雑談】

人間は、目上の人が目下の人を指導するようにできています。

(中略)

例えば、上司との会話で、

「〇〇さんって知識の量がすごいですよね」よりも、

「〇〇さんって知識の量がすごいですよね。どうしたらそんなにインプットできるんですか?」と教えを乞う。

キーワードは、「どうしたら」「なぜ」です。

☑経験則を引き出すような質問をする(P.162~165)

☞これもなまじ勉強している人あるあるだが、相手が何かを教えてくれた時、自分も知っているアピールをしてしまうことがある。仕事の会話で効率を上げるためにそうした返しが必要なこともあるが、雑談に効率も何もない。それどころか、せっかく知らない情報が手に入るかもしれない機会を損失してしまうことにもなる。気を付けたい。

 

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本書の奥付を見ると、初版発行は2020年3月16日。それが2020年7月15日の時点で第39版発行となっている。それだけ「雑談が続かない」「雑談ができるようになりたい」と感じている人が多いという証なのだろう。

かくいう私自身、雑談はどちらかというと苦手な方だが、その原因は「自分が何を話すか」にフォーカスを当てていたからなのだと気づかされた。

相手にいかに気持ちよく話してもらうか」これを意識するだけで、だいぶ変わりそうな気がする。ツープラスや接続詞をさっそく意識して使ってみたい。

 

 https://www.amazon.co.jp/dp/4756920780/ref=cm_sw_r_tw_apa_fabc_MXz9FbEEJ6Q7P

 

【書評】超一流の雑談力 安田正

【雑談がうまい営業マンAの会話例】

A「しかし、最近の異常な大雨には困ってしまいますね。今も駅についた瞬間に降られてしまいました」

B「急に降ってきますからね」

A「そうなんです。なかなか天気が読めないので、週末も外へ行く予定が立てられなくて困っているんですよ」

B「ありますよねえ、私も先週予定がつぶれてしまいました」

A「ええっ、それは災難でしたね!どこに行かれるつもりだったんですか?」

(↑掘り下げ開始)

…と、入りは天気の話題でしたが、「天気(雨)」→「週末の予定」とテーマが移動しています。基本的には一つの話題をフックにして、相手の反応を見ながら話題を変えていき、相手がどこに引っかかるのかを探っていく。引っかかる話題があったら、深堀りしていく…と、これが雑談の基本的な流れになります。このやり取りの中で相手のことを知り、自分のことを知ってもらい、距離を縮めていくのです。(P.56~57)

☞ヨコに話を展開しつつ、引っかかった話題でタテに深堀りする。この基本を押さえておくだけで、実際は雑談は盛り上がり、続くようになると感じる。そのために、展開する取っ掛かりと、深堀りするための情報や知識は、常に集める意識を持ちたい。まさしく「教養」が活躍する場面だろう。

 

【オウム返しで相手の話を促す】

では、相手の話題がこちらの知らなかったキーワードだったり、詳しくない分野だったりした場合、どうすればいいでしょうか?

こういうときに流れを止めないテクニックとしては、「オウム返し」があります。その名の通り、相手の言葉と同じことを伝えるのです。

 

B「この前、マラソンの大会に出たんですよ」

A「えっ、大会に出られたんですか」

 

と、このような受け答えも間違いではありませんが、100点ではありません。オウム返しのポイントは、質問形式で返すなどして、話が広がりそうな言葉を付け加えることです。

 

B「この前、マラソンの市民大会に出たんですよ」

A「えっ、大会に出られたんですか、フルマラソンですか?」

 

といった具合です。オウム返しをすることで相手が詳細な説明をしてくれたり、オウム返しをしている数秒の間に何か会話が広がるような質問を考えることができますので、とても使えるテクニックです。(P.90~91)

☞どれほど情報を集めていても、よく知らない分野というものは出てくる。そこで「聞くスキル」の出番となるわけだが、ポイントは「聞き上手は引き出し上手」ということ。オウム返しで相手が返しやすい球を投げることで、会話が続いていく。

 

【意図のある質問とない質問】

最初は、「ふつう」の雑談を見てみましょう。

A「週末の3連休中、Bさんは何をされていたんですか?」

B「家族との釣りに出かけましたよ」

A「釣りですか!いいですね。どこに行かれたんですか?」

B「伊豆のほうに行ってきました」

A「伊豆ですか、何を釣りに行かれたんですか?」

B「タイ釣りですね」

A「船で釣られたんですか?」

B「そうですね、船に乗って」

A「どれくらいの大きさの船ですか?」

 

…と、一見悪くない会話に見えます。が、釣りに詳しい人ならまだしも、あまり詳しくない人、興味のない人がこのように雑談を広げると、「特に意味のない無駄話」になってしまうのです。

この会話例でいえば、「何を釣りに行ったのか?」「船で釣ったのか?」「どれくらいの大きさの船なのか?」など、ただ間を埋めるための質問をしています。

こうした質問攻めが続くと、相手としては、まるで尋問をされているような印象を受けてしまいますし、何より質問している方が興味のない話題なわけですから、会話が一向に盛り上がりません。こうしたやりとりは、最終的には「手詰まり」となって会話を止めてしまいます。すると、噛み合っていない空気が生まれてしまうのです。(P.98~99)

☞これとまったく同じような「質問攻め」をやられた経験があるが、気持ちよく話すどころか、「それを知ってどうするのか」とだんだん腹さえ立ってきて、以後会話する気を無くした。知らない・興味がないのに無理に掘り下げようとするとこうなる。

 

では、どう改善すればいいのでしょうか?

たとえば先ほどの会話の分岐点でいえば、「釣りですか!いいですね。どこに行かれたんですか?」という質問です。

Aさんが「釣り」を深堀りできる知識があればもう少し盛り上げられたかもしれませんが、特に詳しいわけではない。この場合、そもそもボールを打ち返す方向を間違えているのです。

大事なのは、「Bさん」という人がどういう人か、ということ。つまりBさんのバックグラウンドやその人が持つ特性に注目することです。

(中略)

A「そういえば3連休中、Bさんは何をされていたんですか?」

B「家族と釣りに出かけました」

A「へえ、ご家族と!Bさんはバリバリお仕事をされていると伺ったので、ちょっと意外でした。ご家族との時間は取られるようにされているんですね?」

B「ええ、実は平日はなかなか子どもたちにも会えなくて、だからせめて休日は家族サービスを心掛けているんですよ」

 

といった感じで、Bさんのビジネスマンとしての印象とは異なる「家庭」というポイントに目をつけると、意外な一面が見えてきたり、相手の持っている価値観がわかるかもしれません。また、子どもがいるとわかれば、別の機会に「そういえば、この時期お子さんはもう夏休みですか?」などと聞くこともできますよね。

このように、意味のある質問にするためには、常に相手を見て話すことが大切です。どのようなバックグラウンドを持った人なのか注目しながら会話のポイントを拾っていくようにすると、会話が深まり、相手との距離を縮めていくことができます。

(P.100~101)

☞その出来事やモノについて詳しくないとき、出来事そのもの、あるいはモノそのものにフォーカスするのではなく、その出来事を体験した、モノを所有している「人」にフォーカスを当てるという質問の極意が説かれている。これは目から鱗だった。営業するにしても、生徒を指導するにしても、相手がどんな人物なのか、何が好きで、どんな価値観を持っているのかを知っていることが、成功につながる。使いこなすには練習が必要だろうが、ぜひとも身に着けたい極意だと思う。

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雑談を通して、相手の人柄や関心の方向性が見えてくる。ゆえに、一流の営業は雑談力にも長けている。では、その「雑談力」を磨くにはどうすればよいか?この疑問に真正面から答えたのが本書。ベストセラーになっているので知っている方も多いだろう。(私も以前購入していたことに気づかず、改めて購入してしまった)

実際、雑談で話が盛り上がると、それだけでよい信頼関係が結ばれることを本書を読んだ後に直に体験した。営業の場面だけでなく、生徒や同僚との関係を良好なものにしていくためにも、雑談力は継続して磨いていきたい。

 

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【書評】トップ営業マンが使っている買わせる営業心理術<完全版> 菊原智明

【自己開示】

自己開示とは、自分についての個人的な情報を率直にありのまま相手に伝えることを言います。この自己開示には、自己開示をされた受け手も同程度の自己開示をするという、返報性のルール(人は他人から何らかの施しをしてもらうと、お返しをしなければならないという心理)があることが知られています。自己開示は対人関係および組織内コミュニケーションの活性化を図る上でも、重要な要素の1つとなっています。

(中略)表面的な話や説明だけではお客様と仲良くなることはできません。出会った人との距離を縮めるためにも自己開示は必要なことです。ただし、自己開示は自分の会社や上司の話ではなく、自分自身の話をしましょう。(P.24~27)

☞相手がどんな人なのか分からなければ、人は信頼関係を築こうとしない。自己開示は営業の場面に限らず、人と関係を築く上での基本だと思う。

注意すべきは、あまりにも内輪過ぎることをいきなり開示しても、相手はどう反応してよいのか分からなくなってしまう。ある程度、共感しやすい内容から入るのがよい。

(=木戸に立てかけせし衣食住 以下記事参照)

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【同調効果】

心理学者アッシュの実験で興味深いものがあります。9人の被験者を集めるのですが、このうちの8人はサクラを用意します。2回簡単な質問を出し、サクラ8人は同じ正しい回答、被験者も正しい回答をします。3回目に3本の線を見せ、この長さが同じかを聞く実験です。8人のサクラが「同じ長さの線です」と先に答えた後、被験者がどう答えるかを調べたところ、明らかに1本だけ違うにもかかわらず「同じです」と答えてしまいました。これが「同調効果」と呼ばれるものです。

(中略)また同調効果はこのような使い方もあります。

お客様から安心して反応をもらうための手紙にもこう一言付け加えます。

「今月も17名の方がこの資料を請求されています」

<17人も請求しているんだな。それじゃ安心だし請求してみよう>

と感じるお客様もいます。

「みんなが参加されていますよ」

「これから検討する方の多くが資料請求されていますよ」

とサラッとお客様に伝えてください。口頭で説明するとき、もしくは手紙で伝える時にこのようにひと工夫するだけで、今までよりずっと反応がよくなります。他人に影響される人の同調効果を利用して、初対面の警戒心を解きましょう。(P.32~35)

☞この事例とは逆に不安を煽るやり方になってしまうが、講習休塾の届け出を出されたご家庭に、「他の方々は全員受けますよ」とお伝えしたら休塾を撤回されたことがあった。「自分だけやっていないのはおかしい」という心理は確かにありそう。

 

バーナム効果

バーナム効果とは、あいまいで一般的な表現でも、自分だけに当てはまることとして捉えてしまう現象のことを言います。また、自分にとって肯定的な意見を信じてしまう心理現象も、これに当てはまります。

(中略)主にお客様とお会いした時、すなわち初対面や接客で利用することができます。私は住宅営業をしていましたからお客様とお会いするのは主に住宅展示場になります。展示場にご来店頂いたお客様に対して、接客時にこのような質問を投げかけます。

「ところで今のお住まいには何か悩みがあるのではないでしょうか?」

この質問をすると、先ほどの占い師の話ではありませんが、<どうして私のことがわかるのだろう>とお客様は思うのです。

一般の人にとって住宅展示場は、気軽に入れる場所ではありません。また住宅展示場には営業マンが待ち構えていることもお客様は知っています。そこへ足を運ばれるお客様は間違いなく今の住まいに問題を抱えています。今の家に悩みがなく満足している人が遊びに来るところではありません。そんなお客様に対して「今のお住まいに何かお悩みは?」と聞けばお客様はいろいろ考え答えてくれます。

(中略)また、「お悩みは?」というような漠然とした質問ではなく、次のように具体的に質問をしてもいいでしょう。

「収納にお困りではありませんか?」

「水まわりが使いにくくなっていませんか?」

「お風呂の掃除が大変ではありませんか?」

などとお悩みをピンポイントで質問するのです。たいていのお客様は収納や水まわりの使いづらさに悩んでいます。具体例を挙げて質問するとより答えてくれる確立は高くなります。たとえそういった悩みがなかったとしても、「収納には困っていませんが、床の沈みが気になってきました」などと有力な情報を聞き出すことが可能になります

(P.50~53)

☞問い合わせ時に、「お子様の学習のことで何かお悩みですか?」などと聞くと、詳しい情報のヒアリングに繋がりそう。「学校のテスト対策でお困りですか?」というように、具体的な質問にもできる。

 

【両面・片面提示】

いい面だけを提示することを片面提示と言い、悪い面も提示することを両面提示と言います。いい面だけ言う人は胡散臭く感じ、いい面と悪い面の両方言ってくれる人は信頼を得られる、というものです。

(中略)自社の商品の説明をする際にメリットばかり並べても効果はありません。そもそもそういったメリットの羅列にお客様は興味がなく、聞く耳を持ちません。仮に聞いてくれたとしても胡散臭く思われてしまいます。

私はトーク設計図(あらかじめお客様に説明するトークを考えておくもの)を作成して活用していました。その中で気づいたことがあります。それは3つ以上メリットを続けるとお客様はとたんに信じなくなるということです。

お客様はどんな商品でもメリットだけではないと知っているからです。<最近お客様が話を聞いてくれない>と感じる人はいい面だけでなく悪い面も伝えてください。きっといい反応を得られるはずです。(P.58~61)

☞営業トークに慣れてきた時ほど、気を付けたい内容だと感じた。私自身、旨味のある話を聞かされても、「本当にそう上手くいくか?」とまず疑いの目を向ける。(これは恐らく母譲り。おかげで騙されて被害を被ったことは一度もない。)

特に経済事情の厳しい昨今、保護者が塾のサービスを見る目は厳しくなっている。そんな中で敢えてデメリットも提示することは、誠実な印象を与えられるだろう。

 

【ロー・ボール・テクニック】

ロー・ボール・テクニックとは、相手が認めやすい提案をして、それに承諾したら次々とオプションを要求していく方法です。例えばある商品を考えている相手に商品のメリットを説明し、購入の意志を決めた後に、「実はこのメリットを活かすためには有料の付属品を買わなければなりません」と説明するような手法。気が付いたら営業マンの術中にハマっていた感じを与えることもあるため、使い方には注意を払う必要があります。

(中略)今のお客様は個人情報を明かすことに抵抗を持っており、「住所や連絡先は教えられません」という方が増えているのです。そんな時は諦めずに名前や住んでいる方面から質問してみましょう。そういったことがきっかけで打ち解けて、住所や連絡先を教えてもらうこともよくあります。(P.66~69)

☞筆者も言っている通り、使い方を間違えると詐欺のような印象を与えてしまいそうだが、中略以降に示されているようにヒアリングのテクニックとしても使えそう。

 

【ラベリング効果】

ラベリング効果とは、ある人や事柄のごく一部を見ただけで、そのごく一部分が表現されるような名称を与え、それがその人や事柄のすべてであると決めつけることを言います。良くラベリングされれば問題ありませんが、悪くラベリングされると正当に評価してもらうのは非常に困難になります。

(中略)<提案は中身が勝負、入れ物にこだわってもしょうがない>そう思っている方もいるかもしれません。しかし、お客様が<たいした提案じゃないだろう>と思って見るのと、<これはきっとすごい提案があるぞ>と思われるのでは、天と地ほど結果は違ってくるのです。

お客様への提案書の内容を真剣に考えることは当然です。その上で見た目にも工夫してください。ほんの一手間かけるだけで相手にはいいものだと思ってもらえます。ラベリング効果はお客様にいい印象を与え、その上自分自身もテンションが上がり、双方にいい効果があります。

☞ポイントは、「お客様への提案書の内容を真剣に考えることは当然です」の部分。横山さんの「営業の基本」で紹介されていた「第一印象、第二印象、第三印象」の項目を読めば分かるように、第一印象がよくてもその後の振る舞いが良くないと第二印象、第三印象はかなり悪くなる。相手に「期待外れ感」を抱かせてしまうためだろう。(私などは、敢えてその逆を狙って初対面は素っ気なくすることもある。)内容をしっかり作った上で、それを更に引き立たせる術だと心得たい。

 (第一印象、第二印象、第三印象については以下記事参照)

nekomin.hatenablog.jp

 

 

シャルパンティエ効果】

同じ重さのものでも、イメージによって軽い・重いという判断が変わってしまう心理現象を「シャルパンティエ効果」と言います。商品の大きさを表現する時にタバコと並べてみたり、広さを表現する時に東京ドーム何個分という言い方をすることで、相手にイメージしやすくしてもらう効果もあります。

問題です。5キロの漬物石と5キロの羽毛布団では、どちらの方が軽く感じるでしょうか?実際のところ同じ重量ですが、なんだか羽毛布団の方が軽いような感じがします。ものにはイメージがあり、それがそのような錯覚を起こさせるのです。

(中略)後日のことです。他のお客様との商談をしていました。やはり同じように鉄骨の錆について心配しています。

私「鉄骨が傷付くこともありませんし、錆びることもありません。」

お客様「傷が付かなければ錆びないことはわかりますが、どうしても心配です。」

私「この柱と床は車の下回り部分の2倍の厚みで塗装しております。」

お客様「車の下回りは石などがぶつかって傷つきやすい部分ですよね。」

私「はい。その2倍の厚みですから心配ありません。」

お客様「それを聞いて安心しました。」

(中略)身近に感じられるもの、もしくは体感できるものと比較しましょう。そうすることで、お客様に何倍も伝わるようになります。(P.110~113)

☞まさに理科の授業にも直結する内容。「光の速さは約30万Km」と説明するよりも、「光は1秒間で地球を約7周半」と伝えた方が、生徒の印象に残りやすい。

(もっとも、理科の学習においては約30万Kmという数字も重要なので、実際に地球を7周半するとどのくらいの距離になるのかを計算させるなどして、印象と数字が繋がるように工夫する必要はある)

保護者に講座を説明する際にも、「ゲームソフト1本くらいの料金で、割合の苦手を克服できます!」などと伝えると、効果的かも…?

 

【エコイックメモリー

記憶には感覚記憶というものがあります。これは数百~数秒の間だけ保持される記憶です。この感覚記憶とは正確に言えば「受け取った刺激をそのままの形で短時間保存する」というものです。ちなみに、聴覚情報の感覚記憶をエコイックメモリー、視覚情報の感覚記憶をアイコニックメモリーと言います。

(中略)全く知らない謎の言葉で話しかけられた時でも、数秒以内なら、そのまま反復できます。このように数秒間、記憶されることをエコイックメモリーと言います。

(中略)会員さん「時々ですが、敢えて難しい言葉で説明します。」

私「えっ!難しい言葉ですか?」

会員さん「例えばこんな感じです。『エスポストG方式が肝でしてね』などと唐突に話します。」

私「エスポストG方式…?」

会員さん「そう、今みたいに全くわからないことはお客様も聞き返してくるんです。」

私「なるほど。」

会員さん「お客様が聞き返してきてから、詳しい話をします。」

一般的に売れる営業マンは難しいことをわかりやすく説明します。今までお会いしてきたほとんどのトップ営業マンがそうでした。しかし、この会員さんのようにあえて難しい言葉で説明するパターンもあることに驚きました。

会員さんはさらにこうも言っていました。

説明がわかりやすすぎても印象に残りません。ということもあり、ポイントであえて難しく説明します

確かにその通りだと思いました。ただ忘れてはならないのは、難しい説明に入る前にしっかりと警戒心を解くステップを踏んでいるということです。だからこそ難しい言葉に対してお客様から質問があるのです。(P.126~129)

☞授業でもわかりやすいということは、実際のところ「その場でわかった気になりやすい」というだけで、あとで聞いてみると全然わかっていなかったということがよくある。ゆえに、敢えて生徒が引っかかるポイントを作り、思考せざるを得ない状況に引き込むということをよくやる。これが営業トークにおいても有効なのだ。

ただ、筆者も書いている通り、これはある程度の信頼関係があってこそ使える高等テクニック。最初はわかりやすい説明と誠実な対応を心掛け、信頼を勝ち取る努力をすることが先決だろう。

 

コンコルド効果】

コンコルド効果とは超音速旅客機コンコルドの商業的失敗を由来とする心理的効果のことです。開発計画の途中で、赤字は免れないことが分かっていたのに、それまでの投資が無駄になることを恐れ、投資は継続され結果赤字はさらに拡大しました。つまり、ある対象への金銭的・精神的・時間的投資をし続けることが損失につながるとわかっているにもかかわらず、それまでの投資を惜しみ、投資をやめられない状態を指します。

(中略)無料サンプルでもらったサプリメントを飲み始めたところ、飲んでいると調子がいい気がします。1週間もしないうちに無料サンプルは終わったのですが、飲まないと調子が悪くなるような気がしてサプリメントを購入したのです。

そしていまだに購入し続けています。続けているだけでなく妻や親に紹介までしました。無料だとしても一度続けたことを途中でやめてしまうと損するような気持になります。このようなこともコンコルド効果の1つと言えます。(P.166~169)

☞月謝制の塾は、このコンコルド効果を利用しやすいといえる。実際、長期にわたって通塾を継続してくださっているご家庭は、多少の不手際があっても直ちに退塾につながることは少ない。ただ、そこに甘えて「このご家庭は大丈夫」などと手を抜くようなことはあってはならない。コンコルド効果にあぐらをかいて、肝心の授業や対応が疎かになっていないか、定期的にチェックする機会を持ちたい。

 

【アズ・イフ・フレーム】

アズ・イフ・フレームとは、「もし○○だったとしたら、どのようにするか」「もし△△が実現したら、どのような気持ちになるか」などと質問することにより、相手がかけている色眼鏡つまり、フレームを外すことを言います。自分自身や自分を取り巻く世界や状況に対する心理的フレームを外すことで、創造的かつ前向きな考え方を持つことができるようになります。

商談をしていて話が消えかけることがあるでしょう。状況によっては完全に無理ということもあります。しかし、お客様が一時的に不安になっているだけという場合もあります。そんな時はまず一度受け止めます。そして、言いたいことをすべて吐き出してもらってから、その後質問します。「もし○○だったら…」「仮にその問題が解決したら…」とお客様の思い込みを外してみてください。1つの質問によって話が復活することもよくあります。(P.184~187)

☞塾講師をしていて辛い場面の一つが、退塾の電話を受けるときだ。こちらの力不足で成績が上げられず…という状況であれば潔く力になれなかったことを謝罪し、これ以上印象が悪くならないよう綺麗に別れることも大切だが、中には成績以外の要因(講師の対応が上から目線だったなど)で感情的に退塾を申し出られるケースもある。その際は「聞くスキル」で説かれたように感情に寄り添い、じっくりと不満の要因を聞き、言いたいことを吐き出してもらった上で、「〇〇の対応に不満を感じていらっしゃるのですね。」「もし、担当が○○から別のスタッフに変わるとしたらいかがですか?」などと、代替案を示すと「それならまあ…」と落ち着く場合がある。まずはじっくりと話を聞き、フレームを外す。この流れを意識したい。

(「聞くスキル」については以下記事参照)

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「優秀な営業マンは心理学に精通している」とはよく聞く話だが、その言説を真正面から具現化したのが本書。各項目の冒頭に挙げられた心理効果が、どのような営業シーンで活用されるのか具体的な事例を通して説明されるのでとても分かりやすい。

同時に、ここまで学んできた営業の手法や心構えが、なぜ上手くいくのかを心理学の方面から納得させられることもあって、自分の学びが着実に積み重なってきていることを感じた。営業の実践経験をある程度積んだら、また読み返したい1冊。

 

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【書評】絶対達成する部下の育て方 稼ぐチームに一気に変わる新手法「予材管理」 横山信弘

「自分の予算は1億円だけど、このままだと7000万円しかいかない。残りの3000万円をどうすればいいだろうか?このお客様のポテンシャルはどのくらいあるのか?どのようなアプローチをすればどのくらい売上が上がるか?どんな商材を持っていけば振り向いてくれるか?」

すぐに目標予算を達成するかどうかは別として、焦点が当たっていれば目標に対する不足分がわかります。この不足分は「空白」となります。脳に空白があれば、その空白を埋めたいという心理欲求が働き、能動的に行動するものです。

これを「脳の空白の原則」と言います。(P.27)

☞目標と現状との差を意識させることが思考を促すことは、学習指導の場面においてもよくある。例えば入試過去問の点数が目標点(=合格者平均点等)に達していない場合、「あと何点あれば達成できるか」「そのためにはどの問題が正解になればよいか」を必然的に考えることになる。それができれば、得点しなければならない問題と同じタイプの問題を問題集で繰り返し解き直すなど、具体的な行動に繋がってくる。

筆者の横山さんは、「そもそも8割の営業は目標を意識していない」という。それでは思考にも具体的な行動にも繋がらず、何となくいつもやっていることを繰り返すだけになってしまい、目標の達成は覚束ない。目標は自分を追い込むためではなく、空白を意識するために設定するのだ。それが再確認できた。

 

「できる営業」は、どのような業界で営業をさせても、どんな規模の企業に入っても結果を出し、目標予算を達成させてしまいます。それが自分の仕事だと腹に落ちているから、そのような結果を引き寄せるのです。

ところが、「こんな目標数字なんか達成できるわけない」と思っていると、お客様とどんなに話をしても、有益な情報をもらっても、まったく頭に入ってきません。気づきがないのです。そして数字をつくることができないのは、自分の責任ではなく、業界や自分の知識不足のせいにしてしまうのです。目標達成を当たり前に思い、焦点を当てることがいかに大切か、おわかりいただけるかと思います。

☞そもそも目標を達成させる気がないのに、方法論だけなぞってもうまくはいかない。生徒の成績を上げる気がないのに、授業が上手い人のやり方を表面だけなぞってもうまくいかないのと同じこと。やはりマインドセットは大切。

 

営業はお客様との人間的なお付き合い、いわゆる「信頼関係(ラポール」を構築するために存在します。お客様への「情報伝達」のために営業が存在するわけではないのです。

では、どうすれば営業はお客様との信頼関係を構築することができるのでしょうか?私が本書で一番強調したい技術は、「単純接触効果を増やす」というものです。

「古臭い営業スタイル」とバカにしてはいけません。これはアメリカの心理学者のロバート・ザイアンスの実験でも証明されています。(中略)

営業が結果を出すために必要なことは2つあります。一つは1章で述べたように、目標に焦点を当てること、もう一つはお客様との接触回数を増やすこと、つまり行動量を圧倒的に増やすことです。(P.41~42)

☞今までを振り返ると、ここがあまり意識できていなかったと思う。保護者とは1回1回の面談でじっくりお話をするので、それで十分。あとは向こうから相談があった時に丁寧に応じればいいくらいに思っていた。

だが考えてみれば、半年に1~2回しか会わない人物からヒアリングされたところで、本当の悩みやニーズを打ち明けたくなるものだろうか。さらに言えば提案された商品を購入したいと思えるだろうか。気心の知れた相手にこそ、相談したい・頼みたいと思うのではないだろうか。「営業は商品ではなく、自分を売る」という言葉の真髄は、このあたりにあるのだろう。

そういえば、あまり直接話をしていない保護者からも絶大な信頼を寄せられることがある。そういう保護者は決まって、「生徒が家で授業の話をよくするご家庭」の保護者だった。「いつも先生の授業は実験があって楽しいって言うんですよ」「先生の授業なら、これからも受けさせたいです。」と言ってくださる。そうした信頼関係のあるご家庭は、こちらからの提案もすんなり通ることが多い。

だが、家庭にも色々ある。家で塾の出来事をワイワイと話すご家庭ばかりではない。そうしたご家庭には、まず授業での様子や、成長したところを積極的に伝えるところから始めてみよう。

 

「予材管理」は、最低でも目標を達成させる新マネジメント手法です。「目標達成を目指す」のではなく、「どんなに悪くても目標達成」です。(中略)

「予材管理」の「予材」とは、予定している材料のことを指します。

「予材」は、「見込み」「仕掛り」「白地」という3つから構成されています。

標数字があって、「このままなら80%くらいで落ち着きそうだな」という状況があった時、この80%の部分を「見込み」と呼びます。(中略)

実際に見積もりや提案書を出した先に、提案活動を繰り返しているため、ひょっとしたら注文がくるかもしれない。このような現在仕掛かっているものを、「予材管理」の中で「仕掛り」と呼びます。(中略)

ここで大切なのは、「見込み」と「仕掛り」を合わせて、目標予算の100%をはるかに超えていることです。当たり前ですが、成約率は100%ではありません。その中で空白を埋めていくためには、「見込み」と「仕掛り」で100%をはるかに超えていなければならないということです。(中略)

そして3つ目の「予材」が「白地」です。お客様のところに行って信頼関係を築いている段階で、まだ具体的に仕掛かっているとは言えないものです。

「仕掛り」がお客様に提案をしている、あるいは具体的な案件が進行している「リーディング」の状態だとすれば、「白地」はお客様と「ペーシング」をし、ラポールを構築している段階です。ペーシングとは、相手とペースを合わせていくことです。一番簡単なペーシングの技術は、「単純接触回数」を増やすことです。

「白地」は種まきのようなものです。種を撒いて、その種の特性に合わせて手入れをします。水をやったり、虫を駆除したりしながら、芽を育てるのです。こうして信頼関係が構築され、無事に花が咲いたら、「見込み」の段階になっていくわけです。

それでは、「見込み」「仕掛り」「白地」の3つを合わせた「予材」はどのくらい積んでおけばいいのでしょうか。できるだけ多く、ではいけません。ビジネスには定量的な表現が必要です。「見込み」「仕掛り」「白地」を合わせて、目標予算の2倍の材料を積み上げるのが基本です。(P.86~97)

☞たとえば季節講習の講座数の予算が「100」だったとして…

①在籍している生徒の中で80%受講が見込めるのが60件=「見込み」

②在籍している生徒に提案中で、受講の可能性があるのが60件=「仕掛り」

③問い合わせや講習体験生、過去の企画参加者など、種まきの段階が80件=「白地」

①+②+③=60+60+80=200(=100×2)

というように、目標予算の2倍の「予材」を積み上げるのが「予材管理」の手法。

「目の前の1件を確実に成約に持っていく」のではなく、「成約率が100%ではないことを前提にリスクヘッジとして数字を積み上げる」という発想。

重要なのは③の「白地」の生徒・保護者にも、日頃からアプローチをかけて信頼関係を構築しているかどうか。「そろそろ塾に通わせようか」という状況になったとき、そこで信頼関係が構築できていれば「あの塾の話を聞いてみよう」と思ってもらえる。

営業にも、こうした地道な種まきが必要なのだ。

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これまで、実際の営業の場面におけるアプローチの考え方や手法を中心に学んできた。「質問型営業」「提案型営業」など、呼び方は様々にあっても、基本は「顧客のニーズをしっかりヒアリングし、提案すること」だと分かってきた。

そのためには「聞くスキル」や「事前準備」が必要なことも学んできた。

しかし、本書で説かれていることは、それらの手法とは根本から発想が異なる。

まず、営業の仕事は「目標を達成すること」「顧客との信頼関係をつくること」だと筆者は断言している。

塾も企業である。企業は利益が無ければ存続していくことはできない。継続して顧客の「役に立つ」ためには利益を出す必要があり、そのためには目標達成は必要である。その現実から目を背けてはならないと気づかされた。

また、信頼関係を構築する重要性も本書を読んで腹に落ちた。考えてみれば「質問型営業」「提案型営業」をするにも、信頼関係がなければうまくいくわけがない。

「単純接触効果」を生み出すための大量行動を、定量的に実践していきたいと思った。

そして、目標達成のためのマネジメント手法が「予材管理」。リスクヘッジの発想で、最低でも目標達成を実現するというのは、目から鱗だった。

このブログのタイトルにも「数字を出す」ことを掲げているが、そのために根本的に必要なことが、本書を読んで理解できたと思う。

 

絶対達成する部下の育て方――稼ぐチームに一気に変わる新手法「予材管理」 | 横山 信弘 |本 | 通販 | Amazon

【書評】営業は準備力 野部剛

今の営業は一言で言えば、「ソリューション営業」が求められています。ソリューション営業とは、お客様が、今、どんな問題を抱えているのか、あるいはどんなニーズがあるのかを的確にくみ取り、それに即した自社の商品やサービスを選んでもらうという営業活動です。従来のように、お客様の意見も聞かずに一方的に押し売りや飛び込み営業をするとか、反対に、なんでもお客様の言いなりになってしまう御用聞きに終始するのではなく、お客様との信頼関係を築いたうえで、対等に、長く取り引きできる関係を目指していきます。

(中略)①事前準備を行い、②機会を設けて商品の説明をさせてもらい、③お客様のニーズを聞き出し、④自社製品やサービスを提案し、⑤商談成立(クロージング)という5つのステップを踏む流れになります。需要が供給を上回っていた頃は、最後の⑤クロージングに注力し、一方的に商品の説明をして、買うか買わないか迫るような乱暴な売り方をしても売れました。しかし今、求められているソリューション営業で要になるのは、③お客様のニーズをヒアリングすることです。そのためには、いかに①事前準備をしておくか。実はこれが、成否のカギを握っているのです。(P.Ⅴ~Ⅵ)

☞営業を学び始める前の私がそうだったように、営業は「売り込むこと」というイメージがこれほど定着しているのは、実際にそうした営業で成果が出せていた時代(需要>供給の時代)が確かに存在したことが背景にあることが分かる。しかし、今は需要<供給の時代。時代に合わせて成果の出る営業の在り方も変わっている。

 

ヒアリングを実りあるものにするには、①の事前準備が欠かせません。なぜなら、あらかじめ、お客様がどんな問題を抱えているのか、仮説を立てながら事前に準備しておいた人ほど、お客様にヒアリングしたときに、その仮説に照らし合わせながらどう対応すべきか瞬時に判断できるからです。

カーディーラーにやってきたお客様も同様です。そのお客様自身のライフスタイルを事前に調べておくことはできませんが、車を買い替えたいと思っているお客様の”傾向”をあらかじめ掴んで体系化しておくことはできます。車の買い替えを検討しているお客様は、車に対して何を求めているのか、燃費の良さなのか、広さなのか、小回りがきくことなのか…等々について、情報収集しておくことはできるはずです。

また、なぜ今、車を買いたいと思っているのか、車を買ったら何がしたいのかなどについても、これまでの顧客データからまとめることはできるでしょう。車に対して求めるものは、20代と60代では違うかもしれません。ならば、各世代ごとに、車に対してどんなことを求めている傾向があるのかも併せて、あらかじめリサーチして準備しておけばいいのです。

また、車の買い替えを検討しているお客様は、他のカーディーラーも検討しているはずです。ですから、他のカーディーラーの事情などを把握しておくことも、事前準備の一つになります。

こうした結果を踏まえ、ある程度、想定できる回答を用意する。その上で、来店したお客様ごとのニーズをヒアリングし、最終的に、どの商品をおすすめするか判断すればいいのです。お客様自身も気づいていなかったニーズを引き出し、事前準備情報と照らし合わせながら整理して、「あなたが欲しいと思う商品やサービスはこれです」と見つけ出す。これが今の営業に求められているソリューション営業です。(P.8~9)

☞授業で事前準備(=教材研究)が欠かせない事情に似ている。事前の教材研究がしっかりしていれば、生徒の疑問を拾って発展させることができ、場合によっては当初の目標以上の学びが達成されることもある。深く聞き取るためには、そのための土台ができていなければならない。

生徒・保護者のニーズ(学校の補習を求めているのか、入試対応力の養成を求めているのか)は、ここで言われているようにある程度体系化ができそうだし、今の時代、塾にどんなことが求められているかを調査等から知ることもできる。そして、他塾の情報も持っていることで、いかに自塾の取り組みがニーズに応えるものであるかを説得力をもって伝えることができる。

顧客自身が気づいていなかった潜在的なニーズまで引き出すレベルまで到達するには、確かにそうした準備が必要だろう。

 

トップセールスマンは、お客様の話をとことん聞いたうえで、「松・竹・梅」から商品を選ばせるようにしています。トップセールスマンの話に納得した上で購入(契約)するので、どれを選んでも、「私が選んだ」と実感でき、お客様の満足度は高いのです。

特にお客様から予算を絞られてしまった場合、この選択式提示は重要です。多くの営業マンは、ついついお客様からいわれや予算を鵜呑みにして予算内のご提案に終始してしまいます。しかし、これではお客様の満足感は得られません。

トップセールスマンは、お客様の予算とニーズにギャップがある場合、先の「松・竹・梅」での選択式提示を活用して、予算内の提案を「梅」、予算オーバーではあるもののニーズをすべて満たす提案を「松」、その中間に若干予算オーバーではあるものの優先順位の高いニーズに関してはすべて満たす提案を「竹」として、選択式提示をします。

最終的に、お客様は若干予算オーバーであっても「竹」を選択する可能性が高まると同時に、将来のアップセルやクロスセルの布石にもなり、何より自ら選択したことにお客様自身の満足度が高まります。

☞ニーズをとことん聞いているからこそ、使える方法だと思う。始めから選択肢を提示するのは意図が見え見えになりそう。ここでも「きく力」が成否を大きく左右する。

 

住宅業者のトップセールスマンは、見込みがあるお客様だと思えば、住宅展示場にお客様がいらしたとき、最長では4時間以上もお客様の話をひたすら聞いています。

4時間も話せば、お客様は十分に検討したなという満足感を得ると同時に、「この人なら、きっと私のことを分かってくれたに違いない」という感覚を抱きます。この信頼感がライバルを排除し、住宅という大きな買い物を購入する最後の決め手になるのです。

このとき重要なのが、お客様の話をひたすら聞く。傾聴する。これが信頼関係構築の第一歩です。すごくシンプルなことですが、トップセールスマンは、例外なくやっています。(P.93)

☞このご時世、「じっくり話を聞いてもらえる」ということは、普段の生活の中で実はそれほどなかったりする。それをとことんやるだけでも、信頼関係の構築に大きく寄与するのだ。

 

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ヒアリング能力=「きく力」を最大限発揮するためには、「事前準備」が欠かせないという視点が本書から得られた。質問をするにも、どんな切り口で質問をすれば、顧客のニーズが明らかにできるかは、事前に準備しておかなければその場で思いつけないことは容易に想像できる。特に顧客自身が気づいていない潜在ニーズまで明らかにするというのは、単なる物売りの領域をはるかに越え、むしろ「専門アドバイザー」とでも呼んだ方がしっくりくる。そこまでくれば顧客も一目置いて「この人から話を聞こう」と思うだろう。営業も、授業と同じく奥が深い。

 

営業は準備力: トップセールスマンが大切にしている営業の基本 | 野部 剛 |本 | 通販 | Amazon