【書評】営業の神様 ジョー・ジラード
【うまく聞く技術】
1.口を閉じる。そして耳をすます
2.五感のすべてで聞く。
話の全体像をつかむ。
3.目で聞く。
アイ・コンタクトを保ち、一言一言に注目する。
4.体で聞く。
ボディ・ランゲージを使ってコミュニケーションする。背筋を伸ばしてすわり、少し前に身を乗り出す。気を抜かない。
5.鏡になる。
相手が笑ったら自分も笑い、相手がうなずいたら自分もうなずく。相手が顔をしかめたら、自分も(同意のしるしとして)顔をしかめる
6.話をさえぎらない。
話している相手の思考の流れを中断させたり、いらだたせたりしない。
7.外部から邪魔が入らないようにする。
オフィスに顧客を迎えているときは電話が鳴らないようにする。または、邪魔が入らないところに場所を移す。
8.音の邪魔が入らないようにする。
携帯電話、ラジオ、テレビ、BGMなどを切る。相手への注意がそれてしまうようなものをそばに置かない。
9.視覚的な邪魔が入らないようにする。
窓の外の光景に気をとられて顧客への注意がそれることのないようにする。
10.集中する。
常に相手に注意を向ける。あくびをしたり、時計を見たり、爪を見たりしない。相手を居心地悪くさせたり、ないがしろにされていると感じさせるようなことは一切しない。
11.「行間」を聞く。
相手が言葉以外で何かを伝えていないか、シグナルに耳をすませ、しぐさや表情を読む
12.「口ばかりで行動が伴わない」人間にならない。
以上が聞くためのレッスンの十二のステップだ。毎日の生活でこれらを心掛ければ、よく聞く習慣が身につく。すぐにうまく聞く技術をマスターできるようになる。その技術こそ、すべての成功者に欠かせない要素なのだ。(P.285~286)
☞聞くということを、少々難しく考えすぎていたきらいがある。ジラードの言う通り、うまく聞くとは、「全集中の状態で、相手と向き合う」ということに他ならない。
技術ではなく、姿勢の問題なのだ。その邪魔になるものは、物理的・心理的問わず、その場から締め出さなくてはならない。ただそれだけだ。
【アフターフォローに力を尽くす】
あなたも顧客との関係構築を一番に優先させなければならない。顧客に何かを売ったらそれで終わりと考えているなら、大間違いだ。
本当の営業は売った時から始まる。結婚のようなものだ。結婚式やハネムーンで終わりではない。これから一生続くのだ。愛する者を大切にしなければならない。そうしなければツケを払わされることになる。顧客も同じだ。
顧客を失うのは、たいてい売った後だ。私の仕事の場合、それはショールームではなく、整備部門で起こる。だからこそ、最高のアフターサービスを提供しなければならない。私が毎月第三水曜日に、整備部門のスタッフ全員(全部で三十六人)を食事に招待していたのは何のためか。それは彼らが私の生死を握っていたからだ。だから全員を私のチームにしたかった。私の顧客を最優先してもらいたかった。彼らはそうしてくれた。私のために何でもやってくれた。それもこれも、彼らを手厚くもてなしたからだ。
(P.325~326)
☞「アフターフォローが大切」ということは、どの営業本にも書かれていた。しかし、ジラードがやっていたように、アフターフォローを担う部門との関係をしっかり構築するところまで書いている本はほとんど無かったように思う。われわれ塾講師にとっては、入塾した後に指導を担当してくれる講師たち(学生含む)がアフターフォローを担う関係者ということになる。彼ら・彼女らの心を掴むことは、教室を管理する責任者として、生徒・保護者に誠実であるために必須の条件であることに思い至った。この業界で数字は出せるが、維持できない人を見ていると、ここが疎かになっている人が多い気がする。共に働いてくれる講師たちのために、何ができるかを、今から考えていきたい。
【ジラードの二百五十の法則】
これは葬儀社の経営者から聞いて知ったことだが、亡くなった人の葬儀用に印刷する会葬礼状の数が二百五十通だという。それが平均的な葬儀の列席者数なのだ。
考えてみてほしい。ひとりの人が、葬儀にやってくるような二百五十人の知り合いに与える求心力や影響力を。しかも、その二百五十人のそれぞれに、さらに二百五十人の知り合いがいるのだ。(中略)何が言いたいかというと、それぞれの人が二百五十人もの知り合いに影響を及ぼせることを考えれば、たった一人の顧客も粗末にできないということだ。(P.347~348)
☞事実として、中には誠実とは言えない生徒や保護者もいる。しかし、それはこちらが誠実でなくてよい理由にはならない。誠実に向き合ったのに裏切られ、結果として去られたとしても、こちらの品位は保たれる。そしてそんな姿勢を、生徒・保護者や周りのスタッフは見ているものだ。そしてそれは、更に周囲の人へと伝わっていく。長い目で、顧客と向き合えるようになりたい。
【関係構築の極意】
顧客との連絡を絶やさないというのは、ただ言葉をかけることではない。死ぬまで面倒を見るということだ。それを肝に銘じなければならない。(P.355)
☞これを読んだ時は、鳥肌が立った。私が初めて仕えた教室長(私が塾業界に入るきっかけをつくった)が、関わった生徒や講師に言っていたことそのままだったからだ。
決して器用な人ではなかったし、論理的に考えを伝えられる人でもなかった。正直に言うと、「何を言っているのかよく分からない人」で、最初は嫌いなくらいだった。
何度も反発したし、言うことを聞かない時もあった。そんな生意気な私だったにも関わらず、何度拒絶されても、関わることを諦めようとしない人だった。
初めて主任として送り出した受験生が、合格したときは泣きながら抱き合って一緒に喜んでくれた。その瞬間、心の底から「この人は自分に向き合ってくれている」と感じた。
それ以来、心から信頼、尊敬する元上司として、今も親交が続いている。
「一生面倒を見る」これを有言実行している元上司は、私を含め大勢の元生徒・元保護者、元講師との交流があり、それが仕事の助けにもなっているようだ。
ここまで営業を学んできたが、その極意はキャリアのスタートで常に身近で体感し続けていたものだったのだ。久々に、元上司に会いたいと思った。
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500ページ以上の分厚さを敬遠して、読むタイミングが最後になった。正直に言って、よくある自己啓発本のような内容なのだろうと勘ぐって、後回しにしていた節もある。
しかし、読み進めるにつれて、もっと早くに読んでいればよかったと思うようになった。営業はスキルではなく、生き方そのものに直結していることが、ジラードの語りから「心」に伝わってくる。まるで目の前に彼がいて、自分に足りないものを指摘してくれているかのように。
そして図らずも、ジラードの営業本から、塾講師としての仕事を始めた原点を振り返ることにもなった。
こういうことがあるから、本から学ぶことはやめられない。