「チョークとソロバン」両立への道

塾講師として数字を出す「営業力」を身に着ける勉強ブログ

【書評】トップ営業マンが使っている買わせる営業心理術<完全版> 菊原智明

【自己開示】

自己開示とは、自分についての個人的な情報を率直にありのまま相手に伝えることを言います。この自己開示には、自己開示をされた受け手も同程度の自己開示をするという、返報性のルール(人は他人から何らかの施しをしてもらうと、お返しをしなければならないという心理)があることが知られています。自己開示は対人関係および組織内コミュニケーションの活性化を図る上でも、重要な要素の1つとなっています。

(中略)表面的な話や説明だけではお客様と仲良くなることはできません。出会った人との距離を縮めるためにも自己開示は必要なことです。ただし、自己開示は自分の会社や上司の話ではなく、自分自身の話をしましょう。(P.24~27)

☞相手がどんな人なのか分からなければ、人は信頼関係を築こうとしない。自己開示は営業の場面に限らず、人と関係を築く上での基本だと思う。

注意すべきは、あまりにも内輪過ぎることをいきなり開示しても、相手はどう反応してよいのか分からなくなってしまう。ある程度、共感しやすい内容から入るのがよい。

(=木戸に立てかけせし衣食住 以下記事参照)

nekomin.hatenablog.jp

 

【同調効果】

心理学者アッシュの実験で興味深いものがあります。9人の被験者を集めるのですが、このうちの8人はサクラを用意します。2回簡単な質問を出し、サクラ8人は同じ正しい回答、被験者も正しい回答をします。3回目に3本の線を見せ、この長さが同じかを聞く実験です。8人のサクラが「同じ長さの線です」と先に答えた後、被験者がどう答えるかを調べたところ、明らかに1本だけ違うにもかかわらず「同じです」と答えてしまいました。これが「同調効果」と呼ばれるものです。

(中略)また同調効果はこのような使い方もあります。

お客様から安心して反応をもらうための手紙にもこう一言付け加えます。

「今月も17名の方がこの資料を請求されています」

<17人も請求しているんだな。それじゃ安心だし請求してみよう>

と感じるお客様もいます。

「みんなが参加されていますよ」

「これから検討する方の多くが資料請求されていますよ」

とサラッとお客様に伝えてください。口頭で説明するとき、もしくは手紙で伝える時にこのようにひと工夫するだけで、今までよりずっと反応がよくなります。他人に影響される人の同調効果を利用して、初対面の警戒心を解きましょう。(P.32~35)

☞この事例とは逆に不安を煽るやり方になってしまうが、講習休塾の届け出を出されたご家庭に、「他の方々は全員受けますよ」とお伝えしたら休塾を撤回されたことがあった。「自分だけやっていないのはおかしい」という心理は確かにありそう。

 

バーナム効果

バーナム効果とは、あいまいで一般的な表現でも、自分だけに当てはまることとして捉えてしまう現象のことを言います。また、自分にとって肯定的な意見を信じてしまう心理現象も、これに当てはまります。

(中略)主にお客様とお会いした時、すなわち初対面や接客で利用することができます。私は住宅営業をしていましたからお客様とお会いするのは主に住宅展示場になります。展示場にご来店頂いたお客様に対して、接客時にこのような質問を投げかけます。

「ところで今のお住まいには何か悩みがあるのではないでしょうか?」

この質問をすると、先ほどの占い師の話ではありませんが、<どうして私のことがわかるのだろう>とお客様は思うのです。

一般の人にとって住宅展示場は、気軽に入れる場所ではありません。また住宅展示場には営業マンが待ち構えていることもお客様は知っています。そこへ足を運ばれるお客様は間違いなく今の住まいに問題を抱えています。今の家に悩みがなく満足している人が遊びに来るところではありません。そんなお客様に対して「今のお住まいに何かお悩みは?」と聞けばお客様はいろいろ考え答えてくれます。

(中略)また、「お悩みは?」というような漠然とした質問ではなく、次のように具体的に質問をしてもいいでしょう。

「収納にお困りではありませんか?」

「水まわりが使いにくくなっていませんか?」

「お風呂の掃除が大変ではありませんか?」

などとお悩みをピンポイントで質問するのです。たいていのお客様は収納や水まわりの使いづらさに悩んでいます。具体例を挙げて質問するとより答えてくれる確立は高くなります。たとえそういった悩みがなかったとしても、「収納には困っていませんが、床の沈みが気になってきました」などと有力な情報を聞き出すことが可能になります

(P.50~53)

☞問い合わせ時に、「お子様の学習のことで何かお悩みですか?」などと聞くと、詳しい情報のヒアリングに繋がりそう。「学校のテスト対策でお困りですか?」というように、具体的な質問にもできる。

 

【両面・片面提示】

いい面だけを提示することを片面提示と言い、悪い面も提示することを両面提示と言います。いい面だけ言う人は胡散臭く感じ、いい面と悪い面の両方言ってくれる人は信頼を得られる、というものです。

(中略)自社の商品の説明をする際にメリットばかり並べても効果はありません。そもそもそういったメリットの羅列にお客様は興味がなく、聞く耳を持ちません。仮に聞いてくれたとしても胡散臭く思われてしまいます。

私はトーク設計図(あらかじめお客様に説明するトークを考えておくもの)を作成して活用していました。その中で気づいたことがあります。それは3つ以上メリットを続けるとお客様はとたんに信じなくなるということです。

お客様はどんな商品でもメリットだけではないと知っているからです。<最近お客様が話を聞いてくれない>と感じる人はいい面だけでなく悪い面も伝えてください。きっといい反応を得られるはずです。(P.58~61)

☞営業トークに慣れてきた時ほど、気を付けたい内容だと感じた。私自身、旨味のある話を聞かされても、「本当にそう上手くいくか?」とまず疑いの目を向ける。(これは恐らく母譲り。おかげで騙されて被害を被ったことは一度もない。)

特に経済事情の厳しい昨今、保護者が塾のサービスを見る目は厳しくなっている。そんな中で敢えてデメリットも提示することは、誠実な印象を与えられるだろう。

 

【ロー・ボール・テクニック】

ロー・ボール・テクニックとは、相手が認めやすい提案をして、それに承諾したら次々とオプションを要求していく方法です。例えばある商品を考えている相手に商品のメリットを説明し、購入の意志を決めた後に、「実はこのメリットを活かすためには有料の付属品を買わなければなりません」と説明するような手法。気が付いたら営業マンの術中にハマっていた感じを与えることもあるため、使い方には注意を払う必要があります。

(中略)今のお客様は個人情報を明かすことに抵抗を持っており、「住所や連絡先は教えられません」という方が増えているのです。そんな時は諦めずに名前や住んでいる方面から質問してみましょう。そういったことがきっかけで打ち解けて、住所や連絡先を教えてもらうこともよくあります。(P.66~69)

☞筆者も言っている通り、使い方を間違えると詐欺のような印象を与えてしまいそうだが、中略以降に示されているようにヒアリングのテクニックとしても使えそう。

 

【ラベリング効果】

ラベリング効果とは、ある人や事柄のごく一部を見ただけで、そのごく一部分が表現されるような名称を与え、それがその人や事柄のすべてであると決めつけることを言います。良くラベリングされれば問題ありませんが、悪くラベリングされると正当に評価してもらうのは非常に困難になります。

(中略)<提案は中身が勝負、入れ物にこだわってもしょうがない>そう思っている方もいるかもしれません。しかし、お客様が<たいした提案じゃないだろう>と思って見るのと、<これはきっとすごい提案があるぞ>と思われるのでは、天と地ほど結果は違ってくるのです。

お客様への提案書の内容を真剣に考えることは当然です。その上で見た目にも工夫してください。ほんの一手間かけるだけで相手にはいいものだと思ってもらえます。ラベリング効果はお客様にいい印象を与え、その上自分自身もテンションが上がり、双方にいい効果があります。

☞ポイントは、「お客様への提案書の内容を真剣に考えることは当然です」の部分。横山さんの「営業の基本」で紹介されていた「第一印象、第二印象、第三印象」の項目を読めば分かるように、第一印象がよくてもその後の振る舞いが良くないと第二印象、第三印象はかなり悪くなる。相手に「期待外れ感」を抱かせてしまうためだろう。(私などは、敢えてその逆を狙って初対面は素っ気なくすることもある。)内容をしっかり作った上で、それを更に引き立たせる術だと心得たい。

 (第一印象、第二印象、第三印象については以下記事参照)

nekomin.hatenablog.jp

 

 

シャルパンティエ効果】

同じ重さのものでも、イメージによって軽い・重いという判断が変わってしまう心理現象を「シャルパンティエ効果」と言います。商品の大きさを表現する時にタバコと並べてみたり、広さを表現する時に東京ドーム何個分という言い方をすることで、相手にイメージしやすくしてもらう効果もあります。

問題です。5キロの漬物石と5キロの羽毛布団では、どちらの方が軽く感じるでしょうか?実際のところ同じ重量ですが、なんだか羽毛布団の方が軽いような感じがします。ものにはイメージがあり、それがそのような錯覚を起こさせるのです。

(中略)後日のことです。他のお客様との商談をしていました。やはり同じように鉄骨の錆について心配しています。

私「鉄骨が傷付くこともありませんし、錆びることもありません。」

お客様「傷が付かなければ錆びないことはわかりますが、どうしても心配です。」

私「この柱と床は車の下回り部分の2倍の厚みで塗装しております。」

お客様「車の下回りは石などがぶつかって傷つきやすい部分ですよね。」

私「はい。その2倍の厚みですから心配ありません。」

お客様「それを聞いて安心しました。」

(中略)身近に感じられるもの、もしくは体感できるものと比較しましょう。そうすることで、お客様に何倍も伝わるようになります。(P.110~113)

☞まさに理科の授業にも直結する内容。「光の速さは約30万Km」と説明するよりも、「光は1秒間で地球を約7周半」と伝えた方が、生徒の印象に残りやすい。

(もっとも、理科の学習においては約30万Kmという数字も重要なので、実際に地球を7周半するとどのくらいの距離になるのかを計算させるなどして、印象と数字が繋がるように工夫する必要はある)

保護者に講座を説明する際にも、「ゲームソフト1本くらいの料金で、割合の苦手を克服できます!」などと伝えると、効果的かも…?

 

【エコイックメモリー

記憶には感覚記憶というものがあります。これは数百~数秒の間だけ保持される記憶です。この感覚記憶とは正確に言えば「受け取った刺激をそのままの形で短時間保存する」というものです。ちなみに、聴覚情報の感覚記憶をエコイックメモリー、視覚情報の感覚記憶をアイコニックメモリーと言います。

(中略)全く知らない謎の言葉で話しかけられた時でも、数秒以内なら、そのまま反復できます。このように数秒間、記憶されることをエコイックメモリーと言います。

(中略)会員さん「時々ですが、敢えて難しい言葉で説明します。」

私「えっ!難しい言葉ですか?」

会員さん「例えばこんな感じです。『エスポストG方式が肝でしてね』などと唐突に話します。」

私「エスポストG方式…?」

会員さん「そう、今みたいに全くわからないことはお客様も聞き返してくるんです。」

私「なるほど。」

会員さん「お客様が聞き返してきてから、詳しい話をします。」

一般的に売れる営業マンは難しいことをわかりやすく説明します。今までお会いしてきたほとんどのトップ営業マンがそうでした。しかし、この会員さんのようにあえて難しい言葉で説明するパターンもあることに驚きました。

会員さんはさらにこうも言っていました。

説明がわかりやすすぎても印象に残りません。ということもあり、ポイントであえて難しく説明します

確かにその通りだと思いました。ただ忘れてはならないのは、難しい説明に入る前にしっかりと警戒心を解くステップを踏んでいるということです。だからこそ難しい言葉に対してお客様から質問があるのです。(P.126~129)

☞授業でもわかりやすいということは、実際のところ「その場でわかった気になりやすい」というだけで、あとで聞いてみると全然わかっていなかったということがよくある。ゆえに、敢えて生徒が引っかかるポイントを作り、思考せざるを得ない状況に引き込むということをよくやる。これが営業トークにおいても有効なのだ。

ただ、筆者も書いている通り、これはある程度の信頼関係があってこそ使える高等テクニック。最初はわかりやすい説明と誠実な対応を心掛け、信頼を勝ち取る努力をすることが先決だろう。

 

コンコルド効果】

コンコルド効果とは超音速旅客機コンコルドの商業的失敗を由来とする心理的効果のことです。開発計画の途中で、赤字は免れないことが分かっていたのに、それまでの投資が無駄になることを恐れ、投資は継続され結果赤字はさらに拡大しました。つまり、ある対象への金銭的・精神的・時間的投資をし続けることが損失につながるとわかっているにもかかわらず、それまでの投資を惜しみ、投資をやめられない状態を指します。

(中略)無料サンプルでもらったサプリメントを飲み始めたところ、飲んでいると調子がいい気がします。1週間もしないうちに無料サンプルは終わったのですが、飲まないと調子が悪くなるような気がしてサプリメントを購入したのです。

そしていまだに購入し続けています。続けているだけでなく妻や親に紹介までしました。無料だとしても一度続けたことを途中でやめてしまうと損するような気持になります。このようなこともコンコルド効果の1つと言えます。(P.166~169)

☞月謝制の塾は、このコンコルド効果を利用しやすいといえる。実際、長期にわたって通塾を継続してくださっているご家庭は、多少の不手際があっても直ちに退塾につながることは少ない。ただ、そこに甘えて「このご家庭は大丈夫」などと手を抜くようなことはあってはならない。コンコルド効果にあぐらをかいて、肝心の授業や対応が疎かになっていないか、定期的にチェックする機会を持ちたい。

 

【アズ・イフ・フレーム】

アズ・イフ・フレームとは、「もし○○だったとしたら、どのようにするか」「もし△△が実現したら、どのような気持ちになるか」などと質問することにより、相手がかけている色眼鏡つまり、フレームを外すことを言います。自分自身や自分を取り巻く世界や状況に対する心理的フレームを外すことで、創造的かつ前向きな考え方を持つことができるようになります。

商談をしていて話が消えかけることがあるでしょう。状況によっては完全に無理ということもあります。しかし、お客様が一時的に不安になっているだけという場合もあります。そんな時はまず一度受け止めます。そして、言いたいことをすべて吐き出してもらってから、その後質問します。「もし○○だったら…」「仮にその問題が解決したら…」とお客様の思い込みを外してみてください。1つの質問によって話が復活することもよくあります。(P.184~187)

☞塾講師をしていて辛い場面の一つが、退塾の電話を受けるときだ。こちらの力不足で成績が上げられず…という状況であれば潔く力になれなかったことを謝罪し、これ以上印象が悪くならないよう綺麗に別れることも大切だが、中には成績以外の要因(講師の対応が上から目線だったなど)で感情的に退塾を申し出られるケースもある。その際は「聞くスキル」で説かれたように感情に寄り添い、じっくりと不満の要因を聞き、言いたいことを吐き出してもらった上で、「〇〇の対応に不満を感じていらっしゃるのですね。」「もし、担当が○○から別のスタッフに変わるとしたらいかがですか?」などと、代替案を示すと「それならまあ…」と落ち着く場合がある。まずはじっくりと話を聞き、フレームを外す。この流れを意識したい。

(「聞くスキル」については以下記事参照)

nekomin.hatenablog.jp

 

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「優秀な営業マンは心理学に精通している」とはよく聞く話だが、その言説を真正面から具現化したのが本書。各項目の冒頭に挙げられた心理効果が、どのような営業シーンで活用されるのか具体的な事例を通して説明されるのでとても分かりやすい。

同時に、ここまで学んできた営業の手法や心構えが、なぜ上手くいくのかを心理学の方面から納得させられることもあって、自分の学びが着実に積み重なってきていることを感じた。営業の実践経験をある程度積んだら、また読み返したい1冊。

 

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